不特定多数のターゲットを対象にする

私は、最初に上田さんにお会いしたときに、「ホームページのターゲットは誰にしましょうか?」と尋ねました。すると上田さんは困った表情で「分からない」と答えたのです。既存の顧客がどういうものを欲しがっているのかは分かるけれど、どのような人が発泡スチロールを欲しがっているのかは分からない。それが分からないから、ホームページを通して探したい、と非常に率直な意見でした。

不特定多数のターゲットを相手にホームページを展開するのは、実はかなりの冒険になります。まったく予想外の依頼が飛び込む可能性がありますし、お金にならない案件ばかりを呼び込むリスクもあります。

けれども、松原産業さんはもともと1個からでも注文を受け付けるという柔軟性を持っていました。法人はもちろん、個人からたった1個の注文を受けても「お客様は困ってうちに頼んでいるのだから、できるだけ対応したい」というスタンスを持っているのです。そのうえ、魚を入れる箱から梱包のときの緩衝材、建築用の断熱材などのスタンダードな商品のほか、劇団の舞台美術として依頼された灯鏡、いかだ流し大会用のいかだなど、ありとあらゆる形や大きさ、用途に対応して加工する高い技術を持っています。逆に、ターゲットを絞らないのを強みにできるのではないかと考えました。

そこで目指したのが、「このホームページを見れば、発泡スチロールのことは何でも分かる」というホームページ。まずは発泡スチロールの知識がない人が読んでも分かるように、商品ごとに画像とともに特徴や用途を簡潔に紹介するよう心がけました。さらに、商品を探すときに、商品ごと、加工種別、注文数から探せるように分けたほか、どんな顧客から依頼が来てもいいように、業界ごとにどのように発泡スチロールが使われているのかが一日で分かるようにしました。

「発泡スチロールなんでも相談室」といった、ユニークなコンテンツも作ってみました。実際にホームページをみていただくと分かりますが、発泡スチロールを欲しいと思っていない人でも、十分に楽しめる内容になっていると思います。

もちろん、いいホームページを作っても、検索したときに上位に表示されなければユーザーに選んでもらえません。SEOは当社が中心になって行いました。
現在、社名の「松原産業株式会社」で検索すると同じ名前の会社がトップにきますが、松原産業さんは3位に出てきます。「発泡スチロール」というキーワードだけでも10位には入りますし、「発泡スチロール加工」で検索すると1伎や2位に出てきます。これで、ユーザーをホームページへと導く導線作りは整いました。

 

ホームページに集客をさせるしくみ作り

ホームページを作る前にまず考えたのは、常業プロセスです。松原産業さんは社員数60人、そのうち営業マンが5人(現在7人)という規模の企業なので、自然と営業マンの仕事は多くなります。そのうえ、80%のシェアを持っているのなら、既存の顧客に対するアフターフォローはかなりの重要度を占めます。

そこで、新規顧客を集める役割はホームページに任せればいいのではないかと考えつきました。無料見積もりと無料でサンプルを配るシステムを整えておけば、営業マンがセールスしなくても、ホームページを見て「これ欲しいな」と思った人が自ら問い合わせてきます。見積もりを依頼する人は「今すぐ客」である確率が高いので、そこからすぐにステップ3の商談に話を進められるかもしれません。営業マンの負担はグッと軽くなります。

今すぐ客を確実に集客するため、トップページの目立つ部分に、目立つ大きさで「無料見積もり」 「無許サンプル」のフォームを設けました。もともとあるパイナルフォームのホームページでも、見積もりを申し込めるようになってはいます。けれども、それを目立つように出しているわけではなく、また無料なのかどうかも分かりません。見積もりをしてもらえるということに気付かないユーザーも多いでしょう。コンバージョンにつなげるためにも、見積もりフォームなどの入り口をしっかり固めておく必要があったのです。

 

全国から問い合わせが殺到

新しいホームページを立ち上げてから、1年が過ぎました。松原産業さんのトップページには「日本全国対応、注文24時間対応可能」というキャッチコピーが入っています。その言葉通り、今やホームページは24時間稼働する優秀な営業マンになりました。立ち上げて間もなく、目に見える形で効果は現れました。それまではホームベlジを見ての問い合わせばゼロに等しかったのですが、月に100件以上の問い合わせが来るようになったのです。営業マンだけでは対応できないので、窓口担当者を任命して、顧客からの問い合わせに迅速に対応できるような、システムを整えました。

何よりうれしいのは、全国から問い合わせがあること。それまでは北陸、近畿地方に取引先が集中していたのですが、北海道から沖縄まで、まさしく津々浦々から問い合わせが来るようになったのです。新規の顧客も増えていきました。ターゲットを不特定多数にしているので、やはり予想外の問い合わせは多いようです。

学校関係者から「文化祭の材料にしたい」「卒業制作に使いたい」 という問い合わせがあったり、研究・開発の分野の人から「こんな形のものを作ってほしい」と頼まれたりするなど、ユニークな依頼をたまに受けるとのこと。東京のインテリアデザイナーからも相談を受けるなど、想像もしなかった分野で仕事のチャンスが生まれているのです。これは思いがけない副産物でした。自分たちで頭をひねって新商品を考えなくても、顧客の方からどんどん提案してもらえるのです。営業はホームページに、新規開発は顧客に、という新しいパターンを生み出したのかもしれません。

 

工藤龍矢書籍『グーグル営業』より抜粋

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